肺がんとスクリーニング

WHOの統計データによると、肺がんは乳がんと同じくらい一般的な疾患であり、がんによる死亡の中で第1位となっています。疾患が発見された時点で患者の半数がステージ4、つまり他の臓器への転移段階にあるため、非常に重篤な病気です。しかし、ステージ1で患者を発見できれば、完治のチャンスが大幅に高まります。

多くの研究が過去に「肺がんのスクリーニング」に関して行われてきました。特に、痰によるがん細胞の検査（sputum cytology）と胸部X線（chest X-Ray）がありますが、これらの検査方法では、肺がん患者の長寿命化が実現していないことがわかっています。胸部X線では、まだ結節がないかわずかな結節（subsolid nodule/ground glass nodule）の段階で肺がんを発見することはできません。そのため、胸部X線で肺の結節が見つからなくても、肺がんでないとは明言できないのです。逆に、検査を受けた人がこの恐ろしい病気がないと誤解し、後に悪影響が出ることもあります。

2011年の研究では、「リスクの高い人々（high risk group）」のスクリーニングについて、アメリカ合衆国のNational Lung Screening Trial (NLST)の研究結果が公表されました。低線量CT胸部（Low-dose CT chest）を使ったスクリーニングは、胸部X線と比較して肺がん患者の死亡率を20％大幅に削減できることが示されました。これにより、現在、NCCN (National Comprehensive Cancer Network)、ASCO (American Society of Clinical Oncology)、そしてACCP（American College of Chest Physicians）などの世界中の医学会が、リスクが高い人々に対して低線量CT胸部による肺がんスクリーニングを推奨しています。

リスクが高い人々（High Risk Group）

NLSTによれば、以下の全ての条件に該当する必要があります。

• 55歳から80歳の間であること
• 現在喫煙しているか、または1日1パック以上、平均して30年以上喫煙歴があること（30 pack-year） ** 例えば
• • 15年間、1日に2パック喫煙
  • 30年間、1日に1パック喫煙
  • 20年間、1日に1.5パック喫煙
    ** pack年数は、喫煙年数×1日の喫煙パック数
• 最後に喫煙した時から15年以内であること

喫煙以外にも、研究から次のリスク要因も同定されました。

• 年齢
• 性別
• 民族
• 教育レベル
• 家族の肺がんの歴史、その他のがんの歴史、気腫性肺疾患の歴史を含む

リスクが中程度の人々（Moderate Risk Group）

リスクが中程度の人々とは、20年以上1日に1パック以上（20 pack-year）を喫煙している、または喫煙していた人々、または他のリスク要因がある人々です。例えば、家族の中に喫煙者がいる（second-hand smoker）、線香やPM 2.5の粉塵などの環境リスクがあるなどです。現時点では、低線量CT胸部によるスクリーニングの推奨はありませんが、この人々のグループに関する研究が進行中であり、将来的に勧告が変わる可能性があります。

その他のリスク

線香（Incense）

線香の煙は、線香が受動喫煙者（second-hand smoker）と同様の間接的な影響を与える一方で、喫煙は直接的に肺に取り込まれるため、受動喫煙よりも煙の量を測定するのが難しいです。しかし、動物実験や人間における後ろ向き調査から、長期間にわたる線香の煙への曝露が肺組織に影響を与え、将来的にがんになる可能性があることが示されています。したがって、肺がんのリスクが高いグループ、家族歴がある、気腫、喘息を持つ人々は、線香の煙が濃い場所を避けるか、微粒子をフィルターするマスクを着用することが勧められます。

PM 2.5（微粒子）

微粒子（Particulate Matter、PM）2.5は2.5マイクロンより小さい微粒子で、自動車の排気ガス、燃焼、建設作業、国境を越えるほこりなどから発生し、開発途上国の大都市でよく見られます。例えば、バンコク、ニューデリー、ハノイ、北京などです。これらの粒子は生物の気管に入ると、刺激となり、肺組織の炎症を引き起こし、肺炎や心臓疾患、肺がんに影響を与える可能性があります。中国とアメリカからの多くの研究により、PM 2.5が肺がんの発症や肺がんによる死亡に影響を与える可能性があります。したがって、PM 2.5の基準値を超える状況では、リスクが高いグループは屋外活動を避け、空気清浄機を使用するか、外出時は防塵マスクを装着することを勧められます。

ソース: http://aqicn.org/city/bangkok/

電子たばこ（E-Cigarettes）

電子たばこ（Electronic cigarettes, E-cigarettes）の主要成分はニコチンで、プロピレングリコール、香料、さまざまなフレーバーが含まれています。その目的は、ヒ素（Arsenic）、鉛（lead）、その他多くの有害物質を含むたばこの使用量を減らすことです。E-cigarettesが肺がんの発症に直接関連しているという研究はまだありませんが、E-cigarettesの使用は呼吸器系への炎症を引き起こす可能性があり、たばこに比べて少ないにしても、そこに問題があると指摘されています。しかし、E-cigarettesがたばこよりも害が少ないことから、青少年が試しやすい環境ができ、将来的に他の薬物の使用につながる可能性があるという懸念があります。

肺がんから遠ざかる 早期発見で治療の可能性を高める

アメリカがん協会は、1日30pack-year以上喫煙し、喫煙を続けているか、15年以内に喫煙をやめた55歳以上の人々に、低線量CT胸部での肺がんスクリーニングを毎年行うことを推奨しています。

 

「早期の肺がんを発見することは、治療の可能性を高めるだけでなく

長期的に患者の生活の質を向上させることもできます」

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参考文献

1. 低線量CT胸部による肺がん死亡率の低減。N Engl J Med 2011;365:395-409

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